未知への挑戦(後編)--ミネルバ大学(鈴木凪さん)
INTERVIEW
ディスカッション中心の授業
ミネルバ大学の授業は、徹底したディスカッション中心のスタイルです。
1クラスあたりおよそ20人という少人数で構成され、90分間の授業では教授が話すのはわずか15分程度。残りの時間は、学生同士のディスカッションに費やされます。日本の大学の講義スタイルとは全く違いますね。
授業前には必ず「Pre Work(事前課題)」があり、2〜3時間のリーディングを授業前に行う必要があります。また、テストは存在せず、課題のみで評価されるのも特徴です。
教授との距離感について聞きました。
「課題にもたくさんコメントしてくれます。オンラインだから教授との距離感が遠いとは思いません。アクティブラーニングを重視しています。」
ただし、他の大学に通っていた人からすると、教授との距離は少し遠いと感じることもあるそうです。
インスタで見るのが全てじゃない
1日の大半は勉強時間に充てられます。
「1日9時間くらいは勉強関係に使います。授業が3時間、Pre Workが6時間くらい。課題が重なると14時間勉強していることもあります。」
インスタグラムで見るミネルバ生活は華やかに見えるかもしれませんが、実際はそれだけではないと凪さんは語ります。筆者もSNSでミネルバ大学の学生の投稿を見たことがありますが、世界中を旅しながら学ぶ姿はとてもキラキラして見えました。でも、その裏にはこれだけの勉強時間があるんですね。
実際に、東京滞在中(大学2年時点)のスケジュールを聞きました。
「夜の6時と8時にクラスがあるので、このミーティング(今回のインタビュー時間)が終わったらPre Workをやります。それが終わったら、明日分のPre Workも進めます。」
休日の過ごし方も紹介してくれました。
「ある日曜日では、朝8時から13時まで勉強して、13時から24時まで遊んでいたときもありました。」
学業中心の生活の中でも、息抜きの時間を意識的に作っているとのことでした。オンオフの切り替えがしっかりしていて、すごいなと感じました。また、自炊は必須ではないが、できるとスキルが身につくから良いと言っていました。
オンライン学習のリアル
ミネルバの授業は完全オンライン形式です。Zoomのようなプラットフォームを使用しますが、学習機能がさらに充実しているといいます。
メリットについて聞きました。
「世界中の色々な教授が教えてくれます。パソコン一つで色々なところで授業を受けられるのはすごく良いです。海外旅行の申請を出してOKが出れば、学期中でも海外に行けます。」
学期中でも海外旅行に行けるというのは驚きですね。オンラインならではの自由度の高さを感じます。
一方でデメリットもあります。
「対面特有の、みんなが同じ時間・同じ場所にいるという感覚はありません。対面の空気感はたまに感じたくなります。」
オンラインでどこでも学べる便利さと、対面でしか得られない一体感。どちらも大切なものだからこそ、このデメリットは切実に感じるのかもしれません。

授業と授業がつながっていく
凪さんが特に印象に残っているのは、授業と授業のつながりがあることです。
「Multimodal Communication」という授業では、ユートピアかディストピアかという視点から社会を分析しました。「Formal Analyses」では、自分の選んだ地域の一番標高の高い地域を実際に歩くフィールドワークを行いました。
他にも様々なプロジェクトがあったといいます。数学的に広告を分析する授業、Food Insecurity(食糧不安)に関するボランティア活動をまとめるプロジェクト、「Climate Action Plan」では電車に乗っている人にアンケートを実施し、公共交通のアクセシビリティを上げる提案を行いました。
座学で終わらず、実際の都市や社会と結びつけて学ぶ。これがミネルバ教育の特徴なんだなと感じました。
45〜50カ国から集まる仲間たち
ミネルバにはおよそ45〜50カ国の学生が在籍しており、1学年の人数は130人弱。上級生を含めると200人ほどの国際的なコミュニティです。
「日本人は8人くらいです。他の国と比べて、日本人同士はあまりつるまないですね。」
日本人同士でつるまないというのは興味深いですね。それぞれが自分の軸を持って行動しているということなのかもしれません。
同級生とのつながりについて聞きました。
「同級生とは顔見知りだから仲良くなれます。ただ、先輩との繋がりは薄いです。メンターシップ制度で繋がることはあります。」
1学年130人弱という規模だからこそ、同級生同士の距離が近くなるのかもしれませんね。

センシティブだった自分が変わった
入学当初、凪さんはとてもセンシティブだったと振り返ります。
「入った時はすごくセンシティブでした。音や匂いが気になったりしていました。」
しかし、様々な国の学生と暮らす中で、考え方が変わっていったといいます。
「自分の期待を下げました。自分にとっての当たり前が、当たり前じゃないんだと気づいたんです。」
ムスリムのルームメイトとの生活も、最初は戸惑いがありました。お祈りの時間やヒジャブの文化、ドアを開けるタイミングへの配慮。でも、そういった経験を通じて、色々な意味での寛容さが磨かれたと凪さんは語ります。
「自分の期待を下げる」という表現が印象的でした。相手に合わせるというより、自分の中の「こうあるべき」という基準を柔軟にしていく。それが多様な環境で生きていくコツなのかもしれません。
ミネルバで得た一番の学び
ミネルバで得た一番の学びについて聞きました。
「アカデミックな面では、応用力が身につきました。授業間でのつながり、社会との繋がり、日本のバックグラウンドとの繋がりを応用していけるようになりました。」
そして個人的な成長についても語ってくれました。
「色々な意味での寛容さが磨かれました。入った時はすごくセンシティブだったけど、自分にとっての当たり前が当たり前じゃないと気づいてから、多様性に対する考え方が変わりました。」
知識を得るだけでなく、それを応用する力。そして、異なる価値観を受け入れる寛容さ。この2つが、ミネルバで凪さんが得た最大の財産なのだと感じました。

全員に合う大学ではない
日本の高校生や大学生に向けて、ミネルバを勧めたいかを聞きました。
「全員が合うものではないと思います。過酷な状況に身を置くことが面白そうだなと思う人には合うと思います。自由度が高いからこそ、その環境の中でも自分を律することができる人じゃないと難しいかもしれません。」
この言葉には、凪さん自身の実感がこもっているように感じました。1日9時間、時には14時間も勉強する日々。誰かに管理されるわけではなく、すべて自分で律していかなければならない。その厳しさを知っているからこそ、安易に「おすすめです」とは言えないのだと思います。
筆者も、自由度が高い環境ほど自己管理が難しいと感じることがあります。誰も何も言ってくれないからこそ、自分で自分を動かし続けなければならない。それができる人にとっては最高の環境だけど、できない人にとっては逆に辛い環境になってしまうのかもしれませんね。
現在の専攻と将来のキャリア
現在、凪さんはミネルバ大学の2年生として、人文学と社会学のダブルメジャーで学んでいます。
人文学では「Morality, Ethics, and Law(道徳・感情・法)」、社会学では「Politics, Government(政治・統治)」をテーマにしているそうです。特に人道的な紛争や平和構築といった分野に興味があるといいます。
将来のキャリアについて聞きました。
「今も模索中です。国連のような大きなOrganizationで働くか、小さなNGOで働くか、政府で働くか。Law School(法科大学院)に進むか、働いた後に進学するかも含めて、まだ考えています。」
4年間で4つの都市を巡りながら、人道的な問題について学んでいる凪さん。どんな道を選んでも、世界を舞台に活躍する姿が目に浮かびます。
留学を目指す人へのメッセージ
最後に、これから留学を目指す人へのメッセージを聞きました。
「留学って、日本以外の人と関わるからこそ、自分とは違う価値観やバックグラウンドと関われるんです。」
そして、こう続けます。
「自分が日本人としてどういった意見を持っているのか、なんでそう考えているのかを理解できるようになります。いい成長のチャンスだから、迷っているならやるべきです。」
この言葉にはとても共感しました。海外に出ると、「あなたはどう思う?」「日本ではどうなの?」と聞かれる機会が増えます。その時に初めて、自分が何を考えているのか、日本という国をどう捉えているのかを言語化しなければならなくなる。それは時に苦しい作業だけど、自分を深く知るきっかけになるのだと思います。

凪さんにとって、留学とは
そんな凪さんにとって、ミネルバ大学での4年間とは何なのでしょうか。
バレエのプロになるか、大学に進学するか。その大きな分岐点で、凪さんは「未知への挑戦」を選びました。サンフランシスコ、東京、ブエノスアイレス、ベルリン。4年間で4つの都市を巡りながら、45〜50カ国の仲間たちと学び、議論し、時にぶつかり合う。
「自分にとっての当たり前が、当たり前じゃない。」
その気づきが、凪さんを大きく成長させました。センシティブだった自分が、寛容さを身につけた。知識を得るだけでなく、それを社会や自分のバックグラウンドと結びつけて応用できるようになった。
「迷っているならやるべき。」
1週間40時間バレエを踊っていた高校生が、未知の世界に飛び込んで得たもの。それは、どんな環境でも自分を律して生きていける力と、異なる価値観を受け入れる柔軟さでした。
ミネルバ大学は、全員に合う大学ではないかもしれません。でも、過酷な環境でこそ燃える人、未知のことに飛び込みたいと思える人にとっては、最高の場所なのだと思います。
凪さんの挑戦はまだ続いています。これから留学を目指す人たちにとって、彼女の言葉が背中を押してくれることを願っています。




