「おかしい」と思ったら、黙っていられなかった
Hanaさんは幼い頃から、「おかしいと思うことをそのままにしておけない」性格でした。
ある日、色付きリップを塗って登校すると校則違反だと注意されます。
「なぜダメなんですか?」と聞き返しても、返ってくる答えはいつも同じ。
「校則だから」
納得がいかなかったHanaさんは、校則への疑問を紙にまとめ、校長室へと向かいました。
しかし校長先生から返ってきたのは、「時代だよね〜」という曖昧な言葉だけ。
その瞬間、Hanaさんの中に残ったのは「結局、誰も本気で変えようとはしていないんだ」という無念さでした。
高校で生活指導の先生に同じ質問を投げかけた際には、「校則は生徒を守るためにある」と説明されます。
しかし、Hanaさんはこう言います。
「校則が時に生徒を守る盾になるのは理解してた。でも、当時の私にとっては、校則という鎖に縛り付けられているようで苦しかった。『皆一緒、皆平等』という見えない同調圧力の中で、自分の個性が少しずつそぎ落とされていくような気がして、恐怖すら感じていた。 だからこそ、校則を破ってでも『自分』を主張し続けようと、あの頃の私は必死だったんだと思う」

そんなHanaさんの価値観に大きな影響を与えたのが、お母さんの存在でした。
小学校は制服でしたが、お母さんはPTAの場で「制服はおかしいと思います」と、毎回のように発言していました。 賛成する人はいなくても、お母さんはめげずに言い続けます。
ボランティアやデモにも積極的に参加し、「おかしいと思ったことは、ちゃんと声に出す」
そんな姿を見て、Hanaさんは育ちました。
校長先生に話しに行った時も、「話してみようかな」とお母さんに相談すると、「行ってきな!」と背中を押してくれたそうです。
お母さんはHanaさんの成績や結果よりも、挑戦する姿勢と、失敗から立ち直る過程を評価してくれました。
そのおかげで、Hanaさんは「誰かを喜ばせるためではなく、自分が納得できるかどうかを大切にして生きる軸を持つことができた」と言います。
学校生活で感じた息苦しさは、次第に「日本の外で学びたい」という思いにつながっていきました。

海外大学進学を決めるまで
商業高校で高校時代を過ごしましたが、周囲に合わせることを求められる環境への違和感は消えませんでした。
日本の大学を調べてみると、簡単に想像できてしまいます。入学後の生活も、卒業後の進路も。
「先が見えることに、安心よりも退屈さを感じました」
「たとえ苦しくても、卒業後に自分が誇れるような大学4年間を過ごしたい」
高校2年生の春休み。自分で貯めたお金で、1か月のフィリピン語学留学に行きました。
英語で学び、英語で生活する毎日。想像以上に楽しくて、「海外で学ぶことは自分に合っている」と確信し、海外大学への留学を決意します。
しかし、目の前に立ち塞がったのは膨大な学費の問題でした。
両親に相談しても「そんなお金は払えない」と門前払いされてしまいます。
そこでHanaさんが取った方法は、徹底的にリサーチをし、行動で示すことでした。費用を抑えられる進学方法、学費が安い大学などを調べ、感情ではなく、情報を使って家族を説得しようと考えました。
両親にはプレゼンテーション資料を作り、留学は単なる消費ではなく、「自分の将来への投資」だと説得しました。
それでも、やはりなかなか首を縦に振ってくれません。
そこで、行動で示すために、留学に必要な英語試験のスコアを取得することにしました。留学アドバイザーから「この短期間で取得するのはほぼ不可能」と言われていました。
しかし、3か月間、猛勉強を行いました。
あきらめかけたことも何度もあるし、目標点数に全く届かない現実が悔しくて、大号泣しながら英文を書いていた日もありました。
それでも努力を続け、最終的に見事英語試験の目標スコアを取得します。

その努力を見たお母さんも、「こんなに頑張ったんだから応援するしかない」と海外進学を認めてくれました。
留学先は、学費や教育環境から、カナダを選びました。カナダ国内の大学を徹底的に調べ、比較的費用を抑えながら質の高い教育を受けられるカルガリー大学を選択します。
こうしてHanaさんは、日本で感じていた違和感を出発点に、カナダでの大学生活を始めました。
【大学1年生】「日本ではできる側だった自分」が通用しなかった

最初に衝撃を受けたのは、授業中の学生たちの姿勢でした。
次々と手が挙がる。自分の意見を、当然のように話す。質問だけではありません。教授の意見への反論も、活発でした。
特にビジネス系の授業。学生たちのプレゼンテーション能力の高さに、圧倒されます。
ある日の授業でした。教授が、Hanaさんを指名します。
「Hanaはこれについてどう思う?」
聞き取れない。質問の意味すら、理解できない。頭が真っ白になる。
何も答えられないまま、教授は別の学生を指名しました。
「日本では、比較的できる方だと勘違いしていた。でも、ここではなにもできない」
日本の学校ではテストで1位を取ったこともあります。カナダでは、授業についていくことも、自分の意見を伝えることもできませんでした。
グループワークでも、英語での会話についていけない。次第に、発言の機会が減っていきました。
そこに、新型コロナウイルスの流行が重なります。
孤独・言葉の壁・急激な環境の変化。このときHanaさんは、精神的に苦しい時期を初めて経験しました。
人と接することが、怖くなりました。
「周囲の人は自分のことを嫌っているのではないか」と感じるようになります。
大学へ向かうバスの中で、何故か涙が止まらなくなり、家に引き返したこともあります。別の大学への転校を考えたこともあります。カナダに来たことが間違いだったのかもしれないとも思いました。
追い詰められて、お母さんに打ち明けました。
返ってきたのは、「少しへこたれているだけじゃないの」という厳しい言葉でした。
当時は、その言葉に深く傷つきました。それでも時間が経つにつれ、自分の中でその意味を考えるようになります。
「私は、つらいと文句を言い続けたまま、この時間を過ごしたいのだろうか」
その問いをきっかけに、Hanaさんは少しずつ前を向くようになります。
Hanaさんは自分自身に言い聞かせました。
「留学は、自分で選んだ道、留学が簡単だったら来た意味がない」
「今の自分の行動次第で、この留学が失敗に終わるか、学びに変わるかが大きく分かれる」
当時の経験について、Hanaさんはこう語ります。
「あの苦しい時期を経験し、そこから回復していったこと自体に、留学の価値があったと思います」
何か劇的な出来事があって、一夜にして状況が変わったわけではありません。
授業に出る。課題に取り組む。人と話す。
その小さな積み重ねの中で、「自分は少しずつ前に進んでいる」という感覚が戻ってきました。
「留学では、楽しいかどうかよりも、自分が成長している実感を持てるかどうかが大切なのだと思います」と語ります。

【大学2年生】英語力と自信を取り戻す一年
大学1年目のHanaさんは、毎学期5科目を履修していました。
「とにかく必死でした。気持ちの面でも、体力の面でも、限界に近かったです」
2年目からは、意識的にペースを落とします。授業数を少し減らし、その代わりにアルバイトを始めました。
選んだのは、日本人が一人もいない職場です。
この環境で働いたことによって、コミュニケーション能力が大きく伸びました。
同僚はほとんどが同年代。雑談も仕事上のやり取りも、すべて英語。日本語に逃げられる環境はありません。
「最初はお客さんからの電話を取ることにも震えていましたが、意外と何とかなることが分かりました」
英語を褒められる機会が増えました。日本語訛りがあまりないと言われ、少しずつ自信が生まれます。

韓国系カナダ人の彼氏もでき、英語を使う機会もより増えました。
大学2年生のある日。突然、英語が自然に出てくる感覚がありました。
それまで蓄積してきた英語の知識が、一気につながる。頭の中で文章を組み立てなくても、言葉が口から出てくる。
英語を話すことへの恐怖心は、大きく減りました。
ただし、Hanaさんは海外にいるだけで英語が伸びるわけではないと強調します。
「自分がどれほど英語力を伸ばしたいのか。その先で何をしたいのか。なぜ英語が必要なのか。そこが曖昧だと、楽な方へ流れていくのはとても簡単です」
「英語力を伸ばすためには、自分で自分を律する覚悟が必要だと思います」

【大学3年生】受け身から、自ら機会をつくる人へ
大学3年生は、Hanaさんにとって大きな転換点となりました。
マーケティングへの関心が明確になり、自ら人に会い、機会をつくるために行動するようになります。
きっかけの一つが、日本のテレビ番組『しくじり先生』に出演していたマーケター・森岡毅さんの動画でした。
「マーケティングを使えば、人生の悩みさえも論理的に考えられるのだと感じました」
そこから、マーケティングの授業が一気に面白くなります。
カルガリーの企業のCEOへ、直接連絡を取るようにもなりました。LinkedInやGoogle検索で企業や代表取締役を探す。ひたすらメッセージを送る。面談の機会をつくり、自分の功績をアピールしつつ、業界理解を得るカナダの就職活動やビジネスでは、人とのつながりがとても重視されます。自分が何をしている人なのかを、周囲に知ってもらうことも重要です。
「自分から発信しなければ、存在していないのと同じだと感じました」

留学による変化について、Hanaさんは「人格が丸くなった」と表現します。
以前の自分にあった尖った部分が削られ、不要なとげがなくなりました。
人と環境にもっと感謝できるようになったこと。弱い立場にいる人の気持ちを想像できるようになったこと。そして、何もできない自分や、失敗する自分を受け入れられるようになったこと。
「まだまだ、学ぶことばかりですが、人間として一段階成長できたと思います」
Hanaさんにとって留学とは、形のある資格やモノだけではなく、その後の人生に残り続ける「無形の資産」でした。

【大学4年生】学んできたことを「人を動かす力」へ

大学4年生。Hanaさんは、社会課題とビジネスを組み合わせた学生団体「Enactus」に参加し、マーケティング・ディレクターを務めました。
アイデアを出すだけではありません。活動をどのように見せ、どのように伝え、人を巻き込んでいくのかを考える役割です。
SNSコンテンツの作成。チームビルディング。チームの情報発信。
「単に考えるのではなく、実際に人や組織を動かす側に立った感覚がありました」
これまで身につけてきた英語力、マーケティングの知識、人との関わり方が、一つにつながった経験でした。
さらに夏には、日本で、学生起業家の挑戦を支援するMAKERS UNIVERSITYでのインターンシップにも挑戦します。
日本で働くという選択肢。海外で学んできた自分が日本でどのように評価されるのか。それを実体験として確かめる機会になりました。
四年間を振り返り、カルガリー大学で最も印象に残っていることを尋ねると、
Hanaさんは「誰もが自分の意見を持っていること」と答えます。
どのようなテーマについて質問されても、学生たちは自分なりの考えをすぐに言葉にする。
留学当初は、その姿勢を「すごい」と感じる以上に、「怖い」とさえ思いました。
現在は、それこそが海外大学で学ぶ魅力だと感じています。
「自分で考え、自分の言葉で伝える力を、毎日鍛えられる環境だと思います」
Hanaさんがカナダで好きなのは、
・自分の意見を持ちそれを主張できる文化
・挑戦する人を全力で応援する環境
・多様な価値観や考え方が共存している場
・年齢や肩書きよりも、その人の中身を見ようとする姿勢 です。
一方で、決して楽な環境ではありません。精神的に弱っているときには厳しく、逃げ場がないように感じることもあります。
「それでも、人生のどん底を経験し、これまで見てきた世界を違う角度からも見れるようになったことに、留学した意味があったと思います」

「あえて将来を決めない」という選択
留学を通して、形のあるモノよりも、経験が持つ価値を強く感じるようになったとHanaさんは言います。
「モノは消費され、いつか使えなくなる日が来る。壊れることもある。でも経験は思い出や学びとして一生残る」
「『DIE WITH ZERO』という考え方が、自分にはしっくりきました。1000万円の貯蓄と共に死ぬことは1000万円分の経験を逃したということ。私の生きる目的は『知らない世界を経験し、感じて、最後に”色々あったけどいい人生だったな”と思えること』です」
そんなHanaさんに将来の進路について尋ねると、少し笑いながらこう答えました。
「あえて、決めていません」
他の国にワーホリに行くかもしれない。地元の島根で起業するかもしれない。そのままカナダで暮らす可能性もある。
ただ、一つだけ決めていることがあります。
「目の前にあることに、きちんとワクワクしながら取り組むことです」
今取り組んでいることが、将来どのような形でつながるのかは分かりません。それでも、後から振り返ったときに点と点がつながるという "Connecting the dots" の考え方を大切にしながら、目の前の機会に向き合っています。
P.S. インタビュー後、Hanaさんは現在カナダの企業でマーケターとしての新しい経験をスタートさせたそうです。

これから留学を考える人へ
「留学は、決してキラキラしたことばかりではありません」
苦しいことも、孤独を感じることも、逃げたいと思うこともあります。
それでもHanaさんは、「留学には行く価値がある」と話します。
「留学は、自分の人生を自分で引き受ける経験だからです」
進学先を決めることも、勉強を続けることも、苦しい環境から立ち直ることも、自分から人に会いに行くことも、すべて自分自身の選択でした。
日本の学校生活に違和感を抱き、「このままではいたくない」と考えていた一人の高校生は、カナダで何度も挫折しながら、自分の意見を持ち、自ら機会をつくる人へと成長しました。
Hanaさんにとって留学は、海外で学ぶためだけの時間ではありません。
自分の弱さを知り、それを受け入れたうえで、自分の人生を自分で選び取っていくための時間だったのです。

最後にHanaさんはこう締めくくってくれました。
「過去の出来事そのものは変えられなくても、過去に対する『捉え方』は、現在の自分次第で変えられます。 大学1年生のとき、人生のどん底で一番つらかった時期は『カナダなんて来なければよかった』と後悔したこともありました。でも、毎日がすごく充実していて幸せな今だからこそ、『あのときカナダに来て本当によかった』と心から思えます。同じ『過去の決断』であっても、現在の自分のあり方によって、その意味はいくらでも塗り替えられるんです」
「だから、人生の選択肢に間違いはないと思う。その決断を正解にできるかどうかは未来の自分次第と思えれば、決断する時に私は少し心が軽くなります」
Hanaさんのように志を持った強い方に成長できるのが留学です。
留学に悩まれている方はぜひ、Beyond Japanとともに一歩を踏み出してみませんか?
